公開日:2023-01-24
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運動は、ミトコンドリアの修復サイクルを維持することによって体力の低下を抑えるようだ、という米国ジョスリン糖尿病センターの研究結果が『米国科学アカデミー紀要』誌に発表された。
「運動は、QOL(生活の質)を改善し、種々の疾患を予防するために、広く取り入れられている生活習慣介入のひとつです。長期にわたる運動は、ヒトの全般的な死亡リスクを低下させることが知られています」と共同責任著者のT・キース・ブラックウェル博士は述べている。「私たちのデータは、運動効果の根本的なメディエーター(媒介者)を明らかにするものです。それは加齢による筋力低下を防ぐための介入の標的となるポイントなのです。」
この根本的なメディエーターとは、ミトコンドリアの断片化・修復サイクルである。ミトコンドリアは、エネルギーを製造する主要な細胞内小器官である。ミトコンドリアの機能は健康維持にきわめて重要であり、ミトコンドリアを維持するための断片化・修復サイクルの不具合は、心筋梗塞や2型糖尿病など慢性疾患や加齢関連疾患の発症と進行に関連していることが報告されている。
「運動したあとで、私たちは疲労した筋肉が回復するのを感じるわけですが、そのとき内部で起きているのが、このミトコンドリアの動的なサイクルです」とブラックウェル博士は述べている。「このプロセスのなかで、筋肉は代謝を整備し、機能を回復するのです。」 |
研究チームは、運動におけるミトコンドリアの動的サイクルの役割を、線虫という加齢研究ではよく知られた動物実験モデルを使って検討した。線虫は、加齢によって体力を低下させていくのと同時に、ミトコンドリアの断片化・修復サイクルも顕著に低下していったという。
たとえば、成虫後1日目の若い線虫は、60分の運動で疲労するとミトコンドリアの断片化が増加したが、24時間後には体力もミトコンドリア機能も完全に回復した。ところが、より高齢(5日目および10日目)の線虫では、体力もミトコンドリア機能も24時間では回復しなかった。
「私たちは、運動が、疲労と体力回復のサイクルをもたらし、それと並行してミトコンドリアの断片化・修復サイクルが進行することを明らかにしました」と筆頭著者のジュリアン・クルズ・カンポス博士は述べている。「加齢は、このサイクルの活動を遅くし、それに並行して体力も低下しました。つまり、ミトコンドリアの動的サイクルが体力の維持にきわめて重要であり、おそらく運動によって体力が維持増進されるときにも同様に重要なのだということです。」
研究チームは、若い線虫に毎日1時間の水泳を10日連続で強制する実験を行った。その結果、長期にわたる運動プログラムは、線虫の中年期(10日目)の体力を顕著に改善しただけでなく、ミトコンドリアの動的サイクルの不具合も改善されたという。 さらに研究チームは、寿命を延ばす介入が、加齢時の運動の効果を高められるかどうかを検証した。AMPKは運動中のエネルギー代謝を制御するカギとなる分子であり、寿命の延伸に関連している。AMPKを遺伝子操作によって増やされた線虫は、ミトコンドリアの代謝が改善され、その結果、体力も改善した。それはまた、加齢時の運動能力の維持にも有効だった。逆にAMPKを欠いた線虫では、加齢時の体力が低下し、ミトコンドリア代謝も低下した。この線虫には、加齢を遅らせる運動の効果がまったくみられなかった。 |
「加齢研究においては、たんに寿命を延ばすということだけではなく、健康を増進しQOLを高める方法を見つけることが重要です」とブラックウェル博士は述べている。「人間の加齢においては、筋力の低下による運動能力の低下が、移動能力の低下につながる重要な懸念事項になっています。私たちのデータは、この減少を未然に防ぐための潜在的に有益な介入ポイントを示しています。」
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