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公開日:2025-11-04
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環境中に広く存在する微小なプラスチックは、脳を含む身体のあらゆる部位に入り込んで蓄積し、アルツハイマー病のリスクを高める可能性があるようだ、という米国ロードアイランド大学の研究結果が発表された。
| マイクロプラスチックやナノプラスチックによる環境汚染の人体への影響は、依然として不明の部分が大きい。近年の研究レビューでは炎症、酸化ストレス、上皮バリア障害、免疫機能変化、代謝・内分泌系の攪乱、細菌叢の攪乱といった悪影響が指摘されている。
 研究チームは先行研究で、こうした微小プラスチックが血液脳関門を通過して脳内に侵入する可能性を示唆していた。今回のマウスを用いた実験で、脳内における微小プラスチック粒子の蓄積が、特に遺伝的なリスクの高い人々において、認知機能の低下、さらにはアルツハイマー病などの認知症の発症につながる可能性のあることが明らかになった。  | 
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研究者らは、アルツハイマー病の強い遺伝的リスク因子であるAPOE4遺伝子を持つマウスを、通常のAPOE3遺伝子を持つマウスと比較する動物実験を行った。人間では、APOE4遺伝子を持つ人はAPOE3変異体を持つ人に比べて、アルツハイマー病を発症する可能性が3.5倍高くなることが知られている。
実験では、各遺伝子を持つマウスに、ポリスチレン微粒子を混ぜた飲料水を、3週間投与した。ポリスチレンは、発泡スチロールのテイクアウト容器やプラスチックカップなどに見られる、世界で最も豊富に存在するプラスチックの一つである。
その後、研究者らは、マウスの認知能力を調べるために一連のテストを行った。
オープンフィールドテストは、マウスをチャンバーに入れ90分間自由に探索をさせ、その行動変化を測定するものである。実験の結果、通常のAPOE3マウスは微小プラスチックを飲んでも、潜在的な捕食者から身を隠そうとチャンバーの外縁部を移動しがちであったのに対して、APOE4遺伝子を持つマウスは、特に雄のマウスにおいて、チャンバーの中央部に長く留まる傾向が統計的に有意に高まった。
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これは、捕食リスクを顧みない「無関心(アパシー)」に近い行動であり、人間のアルツハイマー病で特に男性に目立つ症状と整合する所見であるという。
 新規物体認識試験は、マウスが新しい物体を認識する能力をテストするものである。まずマウスは、2つの異なる物体が置かれた開放型チャンバーに入れられ、物体を探索する時間が与えられた。その後チャンバーから出され、しばらくして再び戻されたときには、物体の1つが新しい物体に置き換えられており、その際の行動変化が測定された。 実験の結果、微小プラスチックを飲んだAPOE4マウスは、特に雌のマウスにおいて、新しい物体の識別が遅くなる傾向が統計的に有意に高まり、記憶力の低下が進んだことが示唆された。これは、人間のアルツハイマー病で、特に女性に多い記憶障害の傾向と対応するものだという。 「アルツハイマー病患者では、男性は無関心という症状をより多く示す傾向があります。女性は記憶力の低下をより多く経験します。アルツハイマー病を発症する既知の最大のリスク因子(APOE4)を持つ動物を微小プラスチックに曝露すると、なんと、人間のアルツハイマー病患者に見られる男女の違いに似た感じで、性別に依存して行動が変化したのです」と研究者は説明している。  | 
研究者らは、海や湾底に大量のマイクロプラスチックが堆積しているという別の研究結果も踏まえ、健康影響の解明と規制の必要性を強調している。7月に米国下院で提出されたマイクロプラスチック安全法は、米国食品医薬品局(FDA)に食品・水中の微小プラスチックが及ぼす悪影響について評価するよう求めている。
「マウスで観察されているものが、現実世界で観察されているものと似ているのは興味深いことです。マイクロプラスチックとナノプラスチックの蔓延に関するさらなる研究を奨励したいと考えています」と研究者はコメントしている。
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