生活習慣病予備群と健常者群を対象とした臨床試験において、クロレラを飲用することにより、体脂肪率、血清総コレステロール値および空腹時血糖値の改善が認められました。また、遺伝子発現解析の結果からクロレラ飲用によりインスリンパスウェイが活性化されることが確認され、インスリン抵抗性が改善されることが示唆されました。
- ニュートリゲノミクスについて
- 昔から民間療法的に食品が「身体に良い」とは言われてきましたが、科学的に十分な根拠があるとは言えませんでした。それは、食品は医薬品と違い、数多くの栄養素から成り立っており、非常に複雑な機能性を示すため医薬品開発に使われている解析手法ではその有効性を評価することが困難であったからです。しかし、昨今のバイオテクノロジーの進展により、ゲノム解析技術や遺伝子発現解析技術が確立されつつあり、これらの手法を用いることで栄養素・食品が遺伝子発現などに作用し、疾病発症や疾病の進行を食い止めるメカニズムを解明することが可能になってきました。このように栄養素・食品を摂取したときに起こる生体内の変動を網羅的に解析し、栄養素・食品の機能性や安全性を調べる科学をニュートリゲノミクスと呼びます。ニュートリゲノミクスとはニュートリション(栄養)とゲノミクス(遺伝子の機能を調べる学問)からなる造語です。
- インスリン抵抗性とは?
- インスリン抵抗性とは、インスリンが働きにくくなった状態をいいます。インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などの細胞の中にエネルギーとして取り込ませる働きがあるホルモンです。これにより血液中のブドウ糖が減り、血糖が下がるのです。しかし、インスリン抵抗性があるとインスリンが効きにくくなり、血糖を下げる働きが弱くなります。インスリン抵抗性は糖尿病の発症とかかわりがあると考えられています。また、近年注目されている疾患にメタボリックシンドロームがありますが、メタボリックシンドロームの発症原因として過食や運動不足といった生活習慣の悪化による肥満、インスリン抵抗性が挙げられており、インスリン抵抗性の改善がメタボリックシンドロームの改善につながると考えれれています。
- 研究目的
- クロレラの飲用が生活習慣病予備群と健常者群へ与える影響を、ニュートリゲノミクスの手法を用いて調べることを目的としました。
- 実験方法
- 健常者群16名と生活習慣病予備群17名を対象とし、被験食品として、クロレラ20粒を朝夕 2回の1日40粒、12週間飲用していただき、末梢血を試験前、試験開始 4週後、12週後およびクロレラ飲用停止4週後の16週後に採取し、血液からRNAを抽出し、日立製作所製DNAチップを用いて遺伝子の発現解析を行いました。また、あわせて臨床検査データも取得しました。
- 結 果
- 臨床検査では、クロレラ飲用により両群で体脂肪率及び血清総コレステロール値の改善が認められ、さらに生活習慣病予備群で空腹時血糖値の改善が認められました。遺伝子発現解析では、クロレラ飲用に伴い変動する遺伝子群が数多く抽出されました。これらの中には、信号伝達、代謝酵素、レセプター、トランスポーター、サイトカインなどに関する遺伝子が多く含まれていました。さらに、試験開始時に健常者群と生活習慣病予備群で発現量に差が認められ、かつ、クロレラ飲用により生活習慣病予備群において顕著に変動する遺伝子群を調べたところ、その中には、脂質代謝パスウェイ、インスリンパスウェイに関するものが含まれていました。そこで、インスリンパスウェイに着目し、発現データをインスリン関連のネットワークデータベース上にマッピングすることを試みました。データベースとして京都大学がまとめているKEGGを用いました。その結果、クロレラ飲用によってインスリンパスウエイが活性化されていることが明らかとなり、クロレラ飲用によりインスリン抵抗性が改善されることが示唆されました。このインスリン抵抗性の改善がクロレラ飲用による糖尿病への有効性発現の一つのメカニズムになっているものと推測されます。