済生会奈良病院(奈良市)で行なわれた妊産婦を対象とした臨床試験において、妊娠期間中クロレラを摂取した妊産婦の母乳中ダイオキシン濃度が低下することが確認されました。
- ダイオキシンについて
- 1996年頃から新聞やテレビの報道を通してダイオキシンという環境汚染物質が広く知られるようになりました。ダイオキシンによる環境や食品の汚染は、大きな社会問題ともなりました。ダイオキシンはゴミ焼却炉などで塩素と有機物が反応して生成し、環境中に排出されます。史上最強の毒物とも言われ、極めて毒性が強く、「pg(ピコグラム)」という1兆分の1gの単位で生物に発ガンの促進、催奇形性、生殖機能低下そして免疫抑制などの影響を与えます。ヒトが摂取するダイオキシンの約90%は食物を介したものといわれています。それはダイオキシンが非常に分解されにくく、また脂溶性の高い化学物質であることから、生体に吸収されやすく、いったん生体内に吸収されると長期間にわたって体内に残留することになり、食物連鎖の結果、ヒトが毎日食べる魚介類、肉・乳製品などに濃縮され蓄積されているためです。ダイオキシンの吸収率は非常に高く、食品などと一緒に摂取されたダイオキシンの約90%が腸管から体内に吸収されてしまいます。また、ダイオキシンは母体から胎盤を通過して胎児へ、母乳を介して乳児へと移行することが知られており、出生児の成長過程において様々な健康被害を引き起こしている可能性が指摘されています。昨今、日本や欧米の学童に注意欠陥多動障害(ADHD)や学習障害(LD)が増加していることについて、ダイオキシンなどの環境汚染物質との関係を指摘する研究者もいます。ダイオキシンによる健康被害を防ぐためには、食物などと一緒に摂取されるダイオキシンに対しては腸管から体内への吸収を防ぐこと、そして、すでに体内に蓄積されてしまったダイオキシンに対してはできるだけ速やかに体外へ排出することが重要になります。
- 研究目的
- ㈱サン・クロレラでは実験動物(マウス)を用いた検討により、クロレラ・ピレノイドサ(SUN CHLORELLA株)がダイオキシン排泄促進効果を有することを確認し、その研究結果はすでに学術誌(「Chemosphere」、第59巻2号、ページ297-304、2005年)に研究論文として掲載されています。今回の臨床試験は、その研究成果を踏まえて、日本に在住する妊産婦の方に協力して頂き、母体から胎児および乳児へのダイオキシンの移行を調べるとともに、加えてクロレラが母児間のダイオキシン移行を低減させることが出来るのかを調べました。
- 実験方法
- 44人の妊産婦に提供して頂いた母体血、母体皮下脂肪、母乳、臍帯血および胎盤について、ダイオキシン28異性体の測定を行ない、母体から胎児および乳児へのダイオキシン移行について調べました。加えて、44人の妊産婦のうち23人の方には妊娠12~16週から出産までの約6ヶ月間・クロレラを1日30粒飲用して頂き、母児間のダイオキシン移行量を低下させるかどうかについても調べました。本研究は、ヘルシンキ宣言を遵守し済生会奈良病院治験審査委員会の承認のもとに行なわれました。
- 結 果
- 1. 胎児および乳児へのダイオキシン移行量には母親の体内ダイオキシン量が反映される
- 母体血のダイオキシン濃度(毒性等量:TEQ)と母乳のダイオキシン濃度との間には強い相関関係があることがわかりました。また、母体血のダイオキシン濃度と臍帯血のダイオキシン濃度との間にも強い相関関係があることがわかりました。この結果は、胎児や乳児へのダイオキシン移行量には、その母親の体内ダイオキシン量が反映されることを示しています(図1)。
- (TEQ:ダイオキシンは通常数多くの異性体の混合物として存在するため、最も毒性の強い異性体に換算して表されます。)
- 2.クロレラは母乳中のダイオキシン濃度を低下させる
- クロレラを摂取した群では、対照(クロレラを摂取しない)群に比較して、母乳のダイオキシン濃度が低下することが示されました。この結果は、母親が食生活にクロレラを取り入れることにより、母乳を介したダイオキシンの母児間移行を低減させる可能性があることを示しています(図2)。
- 本研究の結果は、乳幼児においてダイオキシンなど環境汚染物質による健康リスクを少しでも低減させるために、母親がその食生活にクロレラを取り入れることが有効である可能性を示していると考えられます。