生物は生命活動を維持するために様々な物質を絶え間なく作り出しています。それらの物質を網羅的に解析することは生体の代謝の全体像を理解することにつながります。近年、代謝産物を解析(メタボローム解析)する技術が確立され、この最新技術を利用した試験を以下の通り実施しましたのでご報告いたします。
- 研究目的
- クロレラ及びChlorella Growth Factor (CGF)は、メタボリックシンドロームの改善や運動ストレスへの耐性向上、免疫調整作用、その他多岐にわたる作用が知られています。しかし、これらの食品摂取により代謝産物がどのように変化するか、つまり生体全体にどのような影響を与えているのかという点について解析された研究はありません。今回我々は代謝産物解析を応用し、クロレラ及びCGFの幅広い作用を網羅的に確認するため、マウスによる検討を行いました。
- 試験方法
- 10週齢の雄性ICRマウスに基本食を与えるコントロール群、5%のクロレラまたはCGFを含む基本食でそれぞれ飼育するクロレラ群及びCGF群を設定しました。1ヵ月の飼育後、CE-TOF MS1)を用いて血しょうと肝臓の代謝産物を網羅的に解析しました。
- 結 果
- 1ヵ月間クロレラまたはCGFの摂取により、コントロール群と比較したところ肝臓および血しょうで多くの代謝産物の変動が観察されました。結果の一部ではありますが、肝臓の代謝物質243種類の傾向を把握する主成分分析2)の結果を図に示します。図からは、コントロール群とクロレラ群及びCGF群ではっきりと別のグループに分けられることが見て取れます。つまり、クロレラやCGFを摂取することでコントロール群とは異なる様々な代謝産物の変動が起こっていることがわかりました。クロレラまたはCGFの摂取により、高エネルギー化合物であるATPを作り出すTCA回路、燃焼系アミノ酸として知られている分岐鎖アミノ酸回路、窒素を体外へ排出する尿素回路などが変動し、脂肪から優先的にエネルギーを獲得する状態に生体が変化していることや抗酸化作用が判明しました。この、エネルギー獲得状態の変化により代謝産物が変動することで、複雑に絡み合う生命現象が変化し、クロレラは幅広い作用を示すと考えられます。これらの変動は、CGFでより強く観察されました。
- 今後、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現の網羅的解析と組み合わせることで、従来の特定の生体現象のみを捉える試験方法だけでは不明であった、生体”全体”への作用を体系的に理解でき、ひいてはクロレラの作用がなぜ幅広いのかを、さらに紐解いていくことができると考えています。