公開日:2016-01-28
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米国スタンフォード大学医学部の研究チームは、先進工業社会に典型的な食物繊維の少ない食生活が、腸内細菌の枯渇を招くだけでなく、それが世代を超えて子孫に受け継がれるようだ、と『ネイチャー』誌に発表した。
食物繊維は、穀物、野菜、果物など未加工の食品に豊富に含まれており、我々の健康維持に欠かせない。その大きな理由のひとつが、腸内に生息する細菌との相互作用である。腸内細菌は我々が消化できない食物繊維を栄養源にして我々の健康に資する様々な物質を作り出している、と主任研究者のジャスティン・ゾネンブルグ准教授は指摘する。
健康な人の腸内には、何千何万という種類の細菌が住み着いている。「私たちは腸内細菌なしに生きていくことは困難です」と彼は言う。「それらは病原体から私たちを守ってくれるだけでなく、免疫系の賦活化や代謝を助けてくれる存在です。」腸内細菌は、さまざまな局面において新しい仲間を外部から受け入れるが、大部分は母親から誕生時や母乳哺育などを通じて受け取ったものが生涯を通じてそのまま残ると考えられる。
今回研究チームは、低繊維食によって腸内細菌の多様性が失われるだけでなく、少なくとも3-4世代にわたって子孫の腸内細菌にも強い影響をもたらすことを明らかにした。ひとたび、カギとなる重要な細菌種が絶滅してしまうと、単に「正しく食べる」だけでは、その失われた細菌種を取り戻すのに十分でないようだ。 |
工業社会に住む我々はすでにそのような状態にいる可能性がある。食物繊維の極めて少ない加工食品が20世紀中ごろより普及した結果、先進工業国における食物繊維の摂取量は1日平均15gまで落ち込んだ。ちなみに日本人は14.2g(平成25年「国民健康・栄養調査」より)である。これは原始的な生活を送る狩猟採取民族の10分の1に過ぎない、とゾネンブルグ准教授は語っている。
人間の腸内細菌の種類を調べた研究によれば、工業化された社会に住む我々の腸内細菌には、狩猟採取民族や農業社会に住む人々に共通してみられるいくつかの腸内細菌が欠落していることがわかっている。
「ある種の腸内細菌の欠落の原因としては、私たちの社会にみられる大量の抗生物質使用や帝王切開の増加、母乳哺育の減少など様々な要因が考えられます」と筆頭研究者のエリカ・ゾネンブルグ博士は語っている。「私たちは、食物繊維の摂取量の減少も関係しているのではないかと考えました。」
研究チームは、特別なエサと環境で腸内細菌を持たないように育てた若いマウスに、ヒトの腸内細菌を移植した。それを2群に分け、一方には食物繊維を豊富に含むエサを、他方には食物繊維を含まないエサを与えて飼育した。
実験中、研究チームはマウスの糞便試料を分析して両群の腸内細菌の種類を調べたところ、初めのうちこそ区別がつかなかったが、じきに全く異なるものに変化を始めたという。「2週間で、大きな違いが現れました。」とジャスティン・ゾネンブルグ准教授は語っている。「低繊維食を食べたマウスでは腸内細菌の種類が減り始めたのです。半分以上の細菌種で75%以上の減少がみられ、多くの細菌種がどこかへ消え去ってしまいました。」 低繊維食を7週間与えられたマウスは、続いて食物繊維入りのエサで4週間飼育されたが、消えた細菌種は部分的にしか回復しなかった。結局元々いた細菌種の3分の1は、最後まで戻ることはなかったという。高繊維食を食べた対照群のマウスではこのような現象はなにも観察されなかった。 |
しかし研究チームにとって真の驚きは、低繊維食で飼育したマウスを交配して子供や孫を作り出したときに訪れた。子供や孫も親と同様に無菌的に育てられ、母親の細菌だけを受け継ぐように環境が整備されていたが、その結果、腸内細菌叢の多様性が大きく減少し、4代目にいたっては、初代のマウスが持っていた細菌種の4分の3を失ってしまっていたのである。高繊維食に代えても、大部分は失われたままであったという。
「先進工業社会で極端に食物繊維の少ない食生活が普及したのは比較的最近です」とジャスティン・ゾネンブルグ准教授は述べている。「このまま続けば、私たちの子孫の腸内細菌は減り、健康にも影響が及ぶのかもしれません。」
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