公開日:2013-08-13
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哺乳瓶や食品包装から溶け出して体内に入り込み、生殖機能などに影響を与えるのではないかとして、現在でも注目を集めているビスフェノールAという化学物質が、不妊の一端を担っているかもしれない、という米国の研究結果が『人類生殖』誌に発表された。
不妊の原因はさまざまである。女性の卵子、男性の精子のどちらかに問題があると普通は考えるが、それだけですべての不妊が解決できるわけではないらしい。実際、米国人の不妊の2割は原因が不明であるという。米国ボストンにあるブリガムウィメンズ病院の研究チームは、ビスフェノールAと不妊の関係に着目した。
主任研究者のラコウスキー博士によれば、ビスフェノールAは環境中のいたるところに存在しており、人間の体内にも入り込んでいる。卵巣からも検出されることから、人間の生殖機能の根幹をなす部分に極めて大きな有害作用をもつことも当然考えられるという。それが原因不明の不妊を引き起こしている一因である可能性は高いというわけだ。 |
ビスフェノールAは、ポリカーボネートなどのプラスチックの製造原料として用いられる化学物質の一種である。毒性は低いと考えられていたが、近年になって、従来安全と考えられていた極微量のビスフェノールAが動物の胎児等に悪影響を及ぼすという報告が現れ始めた。また食器や食品包装に使われるプラスチックからビスフェノールAが溶出することもわかり、安全性の観点から世界的に規制が行われて現在に至っている。我が国でもポリカーボネート製容器等からの溶出は2.5 ppm(2.5μg/ml)以下になるよう制限されている。
研究チームが今回行ったのは、インビトロ(試験管内)実験と呼ばれる、研究室で生体試料を処理する種類の実験である。通常は動物の生体試料を用いることが多いが、今回はヒトの卵子を用いることでより直接的にヒトに対するビスフェノールAの効果を検証している。
実験方法としては、121名の不妊治療中の患者から採取されたが廃棄される予定だった352個の卵子(未受精卵)を、実験室においてさまざまな濃度(20ng/ml, 200ng/ml, 20μg/ml)のビスフェノールAの溶液に30時間さらし、どのような変化が現れるかが観察された。対照としてビスフェノールAを含まない溶液と反応させた卵子が用いられた。
その結果、ビスフェノールAの濃度が高くなるに従って、成熟する卵子の割合は低下していった。代わりに劣化する卵子の割合が増加した。さらに自発的活性化(実際には受精していないのに受精したような状態になる異常現象)が増加した。さらに加えて、成熟した卵子にも、紡錘体の形成や染色体の整列に異常が増えるという明白な傾向が認められたという。
先行するいくつかの研究報告において、動物の卵子を用いて同様の結果が報告されており、ヒトでも実験動物でもビスフェノールAは同じように悪影響をもたらすことが示されたことになる。 「私たちの実験結果は、ビスフェノールAにさらされることにより、人間の卵子の成熟過程が劇的に阻害されることを示唆しています。これはビスフェノールAが人間の健康に重大な影響を及ぼすという強力な証拠の一つです。私としては、不妊におけるビスフェノールAの役割をさらなる研究によって詳細に解明することが必要だと考えます」とラコウスキー博士はコメントしている。 |
ビスフェノールAが人間の健康に与える影響については、徐々に知見が増えてきているが、まだ十分ではない。ビスフェノールAが不妊にどのように関わっているのかも含めて、今後さらに研究を進めていく必要があるだろう。
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