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公開日:2022-08-01

運動が、すい臓がんへの免疫攻撃を強化する

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ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動には、免疫系の活性化を促進し、すい臓がん細胞に対する免疫療法の有効性を高める働きがあるようだ、という研究結果が『がん細胞』誌に発表された。

この研究は、免疫系が、腫瘍細胞を攻撃する際の、新たなメカニズムを明らかにするものである。運動が、ホルモンの一種であるアドレナリンの分泌を増やして免疫系に作用し、免疫賦活物質であるインターロイキン-15(IL-15)を介した免疫細胞の活性化を促進するというのである。

今回ニューヨーク大学の研究チームは、運動によってIL-15で活性化される免疫細胞(CD8陽性T細胞)の生存率が高まり、マウスの膵管がん腫瘍細胞を攻撃するT細胞数が2倍以上増加することを発見した。

このような運動による免疫細胞の促進効果は、別の研究によっても示されており、たとえば週5日×30分の運動によって膵管がんが50%縮小することや、週3日のランニング(滑車運動)で25%縮小することが、いずれもマウスで報告されている。

また、研究チームは、テキサス大学との共同研究による人間の患者を対象にした臨床試験において、がん手術前の運動が、CD8陽性T細胞の数を増やし、がん細胞を殺傷する作用があるグランザイムBというたんぱく質を分泌することを発見した。別の臨床試験では、運動を行った患者はCD8陽性T細胞数が増加し、運動しなかった患者に比べて、5年生存率が50%向上したという。

「私たちの発見は、有酸素運動が、すい臓がん患部周辺の局所免疫環境に有効であることを、世界で初めて示したものです」と筆頭著者のエンマ・クルツ医師は語っている。「本研究は、すい臓がんにおけるIL-15によるT細胞の活性化が治療に極めて重要であることを示唆しています。」

過去数年にわたり、IL-15のがん治療における有効性が次々と明らかになってきている。そこで、IL-15を直接がん細胞に注入することが試みられたが、残念ながら強い副作用があって実用にはならなかった。そこで、現在は新たな治療法として、IL-15に代わって、T細胞上の受容体(IL-15Rα)に結合して同じ作用を発揮するが副作用を持たない薬剤の開発が進められている。

製薬会社大手ノバルティス社のNIZ985はそのひとつである。これはIL-15Rα受容体に作用してその作用を増強するが、副作用である有害な炎症反応が少ない。ただし、現在のところはまだすい臓がん患者に対する大規模臨床試験は実施されていない。

今回の研究において、クルツ医師らは、有酸素運動もNIZ985による治療も、どちらもマウスにおいて、がん細胞に対する化学療法の有効性を促進する効果があることを明らかにした。運動によって、マウスのIL-15応答性のCD8陽性T細胞数は2倍以上増加することを示した。さらに、IL-15よりも強いIL-15作用をもつNIZ985を化学療法に組み合わせることで、マウスの生存率が2倍に上昇することも示された。

「私たちの研究は、運動とそれに関連するIL-15の作用が、免疫治療の有効性を改善できることを示しています」と主任研究者のダフナ・バーサギ教授は語っている。「軽度の運動でさえ、がんの周辺環境を大きく変える可能性があるということは、今後のすい臓がん治療における可能性を期待させるものでしょう。」

出典は『がん細胞

監修・執筆 和気奈津彦(わけ なつひこ、薬学博士)
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