公開日:2009-04-01
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最近、精子数の減少が話題になっています。普通男性の精液1ml中には5000万個以上の精子が存在します。2000万個以下では乏精子症と呼び、不妊症の原因となります。ところが、最近の精液検査では、5000万個に満たない男性の方がむしろ多いくらいです。さらに精子の運動能力や受精能力の低下も認められ、若い男性ほどこの傾向は顕著です。精子数の減少は全世界的傾向であり、ここ10年間の変化は約300万年の人類の歴史において激変といえます。この現象がこのまま進行すれば、人類の存亡さえ危うくしかねません。 |
このような現象は人類だけでなく、自然界の様々な生物において、世界中のいたる所で形を変えて観察されています。例えば、フロリダに生息するハクトウワシは1950年代半ばにはその80%が生殖能力を無くし、1960年代にミシガン湖沿岸で行われたミンクの養殖では大半のメスが不妊症となり、1980年代フロリダのアポプカ湖では60%以上の雄のアリゲーターに性器異常が認められました。現在日本においても、雌性化した魚が一般河川で数多く見つかっています。
では、このような現象を引き起こしている犯人は一体誰なのでしょう。それは”環境ホルモン”と呼ばれる外因性内分泌かく乱化学物質です。ホルモンとは本来体内で作られ、生物が生きていくために不可欠な種々の生体反応をごく微量で調節する大切な物質です。ところが、環境ホルモンは、生物が持っているホルモンと同様の働きをしたり、ホルモンの働きを阻害して、ホルモン本来の働きを邪魔します。私たちは、産業革命以降、約1200万種の化学物質を作り出してきました。そのお陰で、私たちの生活は豊かで快適なものになりました。しかし、いまや私たちとは切り離すことが出来ない化学物質のなかに”環境ホルモン”は存在しているのです。
すなわち、プラスチック製品や家庭用洗剤・食品パッケージ素材・飲食缶・魚や肉類さらに水道水にも紛れ込んでいます。そして”環境ホルモン”は脂肪に溶けやすいために、長期間にわたり私たちの体内に蓄積し、妊産婦では最大の排出経路が母乳なのです。母乳を通して、環境ホルモンは子供たちの体内に蓄積されていきます。 |
環境ホルモンの健康影響は、生殖異常だけではなく、免疫機能の低下、甲状腺機能の低下、身体や精神の成長遅延、発がん性などが報告されています。しかし、実際のところ、”環境ホルモン”が地球上の生物(人類を含めて)にどの程度影響を及ぼすのか未知数です。WHO(世界保健機構)では、健康への影響について国際的な規模で調査・研究を進めています。その理念は、「予防法」の適用です。今確かなことは、”環境ホルモン”の影響を受けている生物がすでに存在すること、そしてもしも人類に痛烈な一撃を与えるとすれば私たちの子どもたちの世代であり、それから対処策を考えては遅すぎるということです。
ダイオキシンなど”環境ホルモン”は人類への警告のほんの一部であり、オゾン層の破壊やCO2濃度の上昇、それに伴う地球温暖化、自然環境の破壊によるエイズウイルス(HIV)などの新興感染症の出現等々環境問題は山積みです。私たちは、そろそろ本気で環境問題に取り組む時を迎えているのではありませんか。 |