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公開日:2020-02-28

人間は眠っている間に「洗脳」されている!?

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米国ボストン大学の研究チームは、私たちの睡眠中に脳が脳脊髄液で「洗脳」されていることを発見した、と『サイエンス』誌に発表した。

これは、我々の脳で驚くような現象が起きていることを示唆するものである、と研究チームは言う。脳の神経ニューロンが眠りによって沈黙すると、数秒以内に脳から血液が流れ去り、代わりに水のような脳脊髄液が流れ込んできて、リズミカルなパルス波によって脳を洗い始めるというのだ。

睡眠中に起こるこの脳脊髄液のパルス波は、脳波と血流の動きに密接に関連しているという。

「私たちは、ニューロンの中で電気の波が信号を伝達していることを知っています」と共同研究者のローラ・ルイス助教授は語っている。「けれどもこれまで、脳脊髄液にも実際の波が存在することには気付いていませんでした。」

本研究は、睡眠中の脳脊髄液を画像としてとらえた初めてのものでもあるという。ルイズ助教授は、これがいつの日にか、睡眠障害を伴うことが多い自閉症やアルツハイマー病のような種々の神経疾患の解明につながることを期待している。

脳波が、血液と脳脊髄液の流れに連動しているという知見は、他の加齢関連障害の研究にも役立つだろう。これまでにも、脳脊髄液の流動と緩い波動が脳に記憶障害をもたらす有害なたんぱく質を脳から洗い流すのを助けることが報告されている。人が年をとると、脳内の緩い波動の頻度は低下する。これは脳内の血流にも影響し、睡眠中の脳脊髄液のパルス波も低下するので、有害なたんぱく質が蓄積して記憶力を低下させることにつながる。これらの過程を今まで研究者は別々のものとして研究していたが、今回の研究でそれがきわめて密接にリンクしていることが明らかになった。

加齢が睡眠中の血液と脳脊髄液の流動にどのように影響するかをさらに調べるために、ルイス助教授らは、次の研究のために高齢者を募集する計画である。今回の研究では、13人の対象者は全員が23-33歳の若者だった。ルイス助教授は、脳脊髄液の映像を撮影する方法をもっと眠り易いものに改良したいとも考えている。今回の対象者は、脳波を測定するためにEEGキャップをかぶり、かなりうるさいMRI画像診断装置の中で眠らなければならなかったからである。

「研究に参加できることを参加者たちはみな心から喜んでいました。眠るだけで謝金がもらえると思っていたからです」と言ってルイス助教授は笑みを浮かべた。「けれども、実際のところは、秘密でしたが、それが研究の最も困難な部分だったのです。私たちのこの最先端の技術を駆使した素敵で複雑な機械は、人が眠るには最も適さない騒音に満ちた鉄の塊だったからです。恐るべき環境だったと言ってよいでしょう。」

でもさしあたりは、脳脊髄液の画像が撮れる機会を得たことがうれしい、とルイス助教授は言う。「脳脊髄液の睡眠中のパルス波のような劇的な現象において、起きているすべてのことが分かっているわけではありません。いまやっと私たちは脳の一部に目を向けてそれを解析し始めたところです。」

研究チームでは、脳波と血液、脳脊髄液がそれほどまでに完ぺきにコーディネイトされているメカニズムを明らかにしたいと考えている。ニューロンによる脳波の変化がまず起こり、続いて血液が脳から流れ出す。そして脳脊髄液の波が脳内を満たすのである。

ひとつの説明は、ニューロンが眠りに入ると、もうそれほど多くの酸素を必要としなくなるので血液が減少するが、それが脳内の圧力を下げるので、素早く脳脊髄液が流れ込んで圧力を安全なレベルに維持するというものだ。

「でもこれは可能性のひとつに過ぎません」とルイス助教授は言う。「それらの間には直接的な因果関係があるのかもしれないし、もっと別のなにかがそれらの背後に隠されているのかもしれないのです。」

出典は『サイエンス

監修・執筆 和気奈津彦(わけ なつひこ、薬学博士)
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