公開日:2013-12-16
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英国ケンタッキー大学の研究チームは、ビタミンDの少ない食事を長期間にわたって摂り続けていると、脳機能の低下が顕著に進行するようだ、と『フリーラジカル生物学医学』に発表した。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持するのに必須の栄養素であるが、骨以外の臓器や身体機能の維持にも重要な役割を担っていることが多くの研究で明らかにされている。特に脳神経系に対する影響は、アルツハイマー病などの認知症のリスクが高い高齢者にとって重要な問題である。
今回、研究チームはラット(ダイコクネズミ)を用いた動物実験で、ビタミンDの欠乏が脳の機能にどのような影響を与えるかを検討した。
雄のラット27匹を3群に分け、異なる量のビタミンDを含む食餌を与えた。12ヶ月齢(ラットでは中年にあたる)から始めて4-5ヶ月継続して食べさせた後に、ラットの脳内の酸化ストレスによる損傷を調べた。 その結果、少量のビタミンDしか与えられなかったラットでは脳内のたんぱく質の過酸化による損傷の度合いが有意に高いことが明らかになったという。また、これらのラットは、学習能力と記憶能力が有意に低下していることもわかった。 |
「ビタミンD欠乏症は、特に高齢者の間で広く見られる症状です。私たちは中年期から高齢期にかけてビタミンDの少ない食生活をしていることが、どれくらい脳に酸化ストレスをもたらすかを知りたいと考えました」と筆頭研究者でケンタッキー大学化学部のアラン・バターフィールド教授は語っている。「活性酸素による脳内の損傷と、そのために起こる認知能力の低下を抑えるためには、血中に充分な濃度のビタミンDが必要なのです。」
活性酸素は、細胞に含まれる脂質やたんぱく質、DNAなどと反応して過酸化物を作り出し細胞機能を損なう。それが老化の主要な原因と考える専門家もいる。
過去の研究では、ビタミンDの血中濃度が低い人のほうがアルツハイマー病にかかりやすいことも報告されている。2012年には、ハワイ在住の日系人を対象とした30年以上にわたる疫学調査で、ビタミンDの摂取量が少ないと脳卒中のリスクが高まることが報告された。また、難治性の神経疾患である多発性硬化症との関連が疑われるとの報告もある。
ほかにもビタミンDは、風邪や乳がん、糖尿病、心臓病、子宮筋腫など、さまざまな病気に関連のあるとことが報告されており、適正な血中濃度の維持が健康の維持に極めて重要であることを示唆している。 ビタミンDは、日光(紫外線)を浴びることで体内での生合成が可能だが、食品からの摂取量が欧米に比べて多い日本でも、日照時間が短くまた野外活動が少なくなる冬季にはビタミンD欠乏になる人がかなりの割合にのぼるという報告もある。特に、北海道などの高緯度地方や、高齢者(特に寝たきりの方)、外出を控えがちな妊婦、新生児では充分な注意が必要だ。 |
バターフィールド教授は、もし血中濃度が低かったときには、ビタミンDが豊富に含まれる食品(魚介類やキノコ、レバーなど)や、ビタミンDサプリメント、そして一日最低でも10-15分の日光浴をして正常なビタミンD濃度を維持することで脳機能の低下を予防できるとしている。