公開日:2016-06-23
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ドイツ・ミュンヘン工科大学の研究チームは、亜鉛欠乏が軽度で、皮膚症状や疲労などの自覚できる症状がないレベルでも、消化機能には悪影響を及ぼすかもしれない、という研究結果を『英国栄養学雑誌』発表した。
亜鉛は、必須微量元素(ミネラル)のひとつであり、人や家畜の生命機能の維持になくてはならない存在である。今回の結果を受けて、研究チームでは、短期でも亜鉛不足にならないように気を付ける必要があるだろうとコメントしている。
これまでの研究では、臨床レベルの亜鉛欠乏症を正常レベルの動物と比較するのがふつうだった。けれども、「現実には臨床レベルの亜鉛欠乏症は人でも動物でもめったに起きないのです」と筆頭研究者のダニエル・ブルッガーは語っている。そこで、研究チームはより軽度の亜鉛欠乏状態に着目したのだという。 |
今回、研究チームは離乳したばかりの48匹の子豚を用いて一連の実験をおこなった。子豚の場合、亜鉛欠乏食で飼育されると、約10日で臨床レベルの欠乏症が現れることから、研究チームは8日目までの消化器機能の変化に焦点を当てることにした。
亜鉛欠乏の症状は、外見からはわからなくとも速やかにはじまり、それは肝臓や血液を調べることでわかるという。研究チームは、子豚をグループに分け、各々に亜鉛含量の異なる食事を8日間与えて軽微な欠乏状態を作り出した。
その結果、エサに含まれる亜鉛量の低下に応じて、子豚の身体はより効率的に亜鉛を吸収するように変化し、同時にすい臓からの亜鉛の分泌量が低下した。そしてすい臓から分泌されるトリプシンやキモトリプシンといった種々の消化酵素の活性も低下した。糞便の分析から、実際に消化機能が低下し未消化な便が増加したことも確認したという。
「亜鉛欠乏症の動物では食欲の低下が観察されます。この理由について色々な仮説が提出されてきました。例えば迷走神経に直接影響する、というのもそのひとつです。でも実際の原因は意外と単純かもしれません。つまり亜鉛欠乏によって消化速度が落ちて胃腸に食べ物が溜まり、空腹感が低下するというだけかもしれないのです」とブルッガーは語っている。
すい臓は食物の消化とエネルギーの恒常性維持に中心的な役割を担っている臓器であり、亜鉛維持のために消化管へ亜鉛を送り出すが、体内が亜鉛不足になると、すい臓からの亜鉛の分泌は最小になる。ブルッガーらの研究チームは、これが消化機能に影響するのではないかと考えたのが研究のきっかけだったという。 消化機能の大切さは人でも家畜でも同じであり、離乳開始直後の数週間が特に重要である。「私たちは、すい臓中の消化酵素の量(活性)と体内の亜鉛蓄積量の間には直接的な関係があることを証明ました」とブルッガーは語っている。「短期的にでも亜鉛欠乏にならないように気を付けるべきだということです。豚と人の身体の構成はよく似ています。今回の結果を人に当てはめるとすれば、1日1個、時々は2個の卵を食べれば、亜鉛欠乏になることはないでしょう。」 |
「軽度の亜鉛欠乏によって炎症マーカーが上昇し免疫能が低下することも知られているので、特に必須栄養素が欠乏しがちな菜食主義者や高齢者は、亜鉛の摂取量をきちんと調べるべきでしょう」とブルッガーはコメントしている。
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