公開日:2023-06-26
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軽-中強度の運動を短時間するだけで、がん患者の血液中の免疫細胞を増加させ、がん細胞を破壊できるかもしれない、というフィンランド・トゥルク大学の研究結果が発表された。
運動には、がんのリスクを減らし、がん治療における副作用を低減させるだけでなく、患者のQOL(生活の質)と予後を改善する効果のあることが明らかにされてきている。
「以前は、がん患者は、がんと診断されたら、ただ休息を取るべきだと考えられていました。現在では、私たちは多くの研究によって、運動ががんの予後を改善する可能性のあることを知っています。でも、運動がどのようにがんをコントロールしているのか完全にはわかっていません」と筆頭著者のティア・コイヴラ研究助手は語っている。 |
これまでの動物研究で、運動が免疫系の機能に影響を及ぼし、より多くの免疫細胞が腫瘍の周囲に移動し、がん細胞を破壊する活性が高まることが明らかにされている。そこで、研究チームは、短時間の運動ががん患者の免疫細胞の可動性に影響するのではないかと考えて研究を実施した。
研究チームは、白血病および乳がんの患者28名(20-73歳)を対象に検討をおこなった。患者は、10分間の自転車漕ぎを行い、その前後に採血して免疫細胞の状態が観察された。
「ペダルの重さは、患者の体力に合わせて、軽強度から中強度の運動になるように調節されていました。目標は、患者が疲労困憊することなく10分間の運動を継続できるということでした。その間しだいに患者の心拍数は上昇していきました」とコイヴラ助手は語っている。
研究チームは、運動前後の血液を用いて、一般に白血球として知られるさまざまな免疫細胞について観察し、その変化と運動の関係を分析した。
その結果、運動によって、がん細胞を破壊する能力をもった免疫細胞の数が増加することが明らかになったという。
具体的には、運動によって、白血病患者の血液中の細胞障害性T細胞やナチュラルキラー細胞が増加した。乳がん患者の場合には、運動は白血球の総数を増加させ、細胞障害性T細胞やナチュラルキラー細胞に加えて、中間単球とB細胞の数も増加させた。
変化は迅速かつ一過性であり、ほとんどの患者で、免疫細胞の数は、運動終了から30分後には安静時のレベルに戻っていた。
とりわけ興味深いのは、どちらのがん患者においても、細胞障害性免疫細胞の増加が運動中に観察されたことであるという。この免疫細胞はがん細胞を破壊する潜在的能力をもっている。 研究チームはまた、どちらのがん患者においても運動強度と免疫細胞数の変化に関連が見られることを発見した。運動による患者の心拍数と血圧の上昇が高まるほど、より多くの免疫細胞が血液中に移行してきた。 「私たちの結果が示しているのは、運動強度が高まるとより多くの免疫細胞がその貯蔵器官から血液中に移動してくるということですが、それはまた軽強度あるいは中強度の運動をわずか10分間継続することでも、がんと闘う重要な免疫細胞の数を増やせるという事実です」とコイヴラ助手は語っている。 コイヴラ助手によれば、患者たちが身体活動を楽しんで行っていたことも重要であるという。 |
「がん治療は、患者を疲労させ運動へのモチベーションを低下させます。それゆえにこそ、スーパーマーケットへの10分程度のサイクリングやウォーキングが免疫細胞を活性化するのに十分であるという事実が重要になってくるのです。」
研究チームによれば、免疫細胞がどこから血液中に入り運動後にどこに行くのかはまだ明らかではない。
「免疫細胞が腫瘍細胞を攻撃しそれを破壊しているのかどうかは、さらに研究を進めないとわかりません。動物実験ではそれが証明されていますが、がん患者を対象にした試験ではまだ完全にはわかっていないのです」とコイヴラ助手は語っている。
がん治療は、しばしば免疫細胞の数を減らして患者の免疫力を低下させる。免疫系が弱まったときに、運動による免疫増強パワーはとりわけ重要になってくるのではないだろうか。
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