公開日:2023-06-15
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化学メーカーは、PFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質)の危険性に関する情報が公にならないように画策していたことが、米国カリフォルニア大学の研究で裏付けられた。
この研究は、PFASの最大のメーカーであるデュポン社と3M社の内部文書を検証し、PFASの毒性が表沙汰になって使用が規制されるのを遅らせようとする企業戦略を解析したものである。PFASは、衣服や日用品、食品包装などに広く使われる化学物質で、環境中で容易に分解されないことから「永遠の化学物質」とも呼ばれている。現在ではPFASは世界中の人々の体内や環境中に普遍的に存在している。
「これらの内部文書は、化学メーカーがPFASの危険性を知りながら、それを一般大衆や監督庁、さらには自社の社員らに対してさえ隠蔽しようとした明確な証拠です」と主任研究者のトレーシー・J・ウッドスタッフ教授は語っている。 |
この隠されていた企業内部文書は、1961年から2006年までの45年間に及ぶもので、PFAS汚染でデュポン社に初めて勝訴し、その経緯が映画化もされた、ロバート・ビロット弁護士による訴訟の過程で発見されたものである。現在はカリフォルニア大学化学企業文書ライブラリーに寄贈されている。
「この内部文書にアクセスできたことで、メーカーがいつ何を知っていたかだけでなく、重要な公衆衛生情報をひそかに保持していたこともわかりました」と筆頭研究者のナディア・ゲーバー医師は語っている。「本研究は、政策に情報を提供し、化学物質規制の予防原則に私たちを導く上で重要です。」
その使用の最初の50年間にわたって、PFASの毒性については一般にはほとんど知られていなかった。けれども、メーカーは、一般に公表される少なくとも21年前には、複数の研究からPFASの副作用についての情報を得ていたという。
デュポン社は、内部における研究からPFASの毒性の証拠を得ていたものの、学術誌にそれを発表せず、有害物質規制法によって義務付けられている環境保護庁への届け出も怠っていた。これらの内部文書はすべて「社内秘」のスタンプが押され、幹部が「このメモの破棄を望む」と明言したものさえあったという。
今回の研究では、企業が知っていたことと一般大衆の知り得たことを時系列にそってまとめ、企業がいかにして有害情報を隠蔽して製品を守ろうとしたかを分析している。
例えば、1971年の内部メモによれば、デュポン社が設立したハスケル研究所は、C8(PFASのひとつ)が「吸入すると極めて毒性が高く、摂取すると中程度の毒性がある」ことを発見した。そして1979年のデュポン社あての非公開報告書で、ハスケル研究所は、C8を1回投与された犬が「摂取後2日で死亡した」ことを報告している。 また、1980年には、デュポン社と3M社は、C8製造ラインで働いていた妊娠中の従業員8人のうち2人が先天異常のある子供を出産したことを知った。だが同社はこの発見を公表せず、従業員にも伝えなかった。翌年の社内メモには「デュポン社ではC8が原因で先天性欠損症が発生したという証拠はない」と書かれていた。 このような事例があるにもかかわらず、デュポン社は1980年にC8は「食卓塩と同様に毒性が低い」として従業員を安心させた。1991年のプレスリリースでは、デュポン社の製造工場の近くでのPFAS地下水汚染の報告に言及し、「検出された濃度レベルでは、C8は人体に対して既知の毒性や健康被害を及ぼさない」と主張した。 |
2004年、環境保護庁はC8に関する調査結果を開示しなかったことを理由にデュポン社に罰金を科した。1,645万ドルの和解金は、当時の米国の環境法に基づいて得られた民事罰金としては最高額だった。けれども、それはデュポン社の2005年のC8からの年間収益10億ドルからみれば、ほんの一部に過ぎなかった。
「多くの国がPFASの生産を抑制するための法的・立法措置を追求しており、この論文で提示された証拠のタイムラインが各国の助けとなることを願っています」とウッドラフ教授は述べている。「このタイムラインは、米国の有害な化学物質を規制する方法における重大な失敗を明らかにしています。」
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