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公開日:2013-10-18

世代を超えて続く葉酸不足の悪影響

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葉酸は、胎児の成長に欠かせないビタミンのひとつ。受胎前後の時期に葉酸が不足していると、先天異常のリスクが高まるが、カナダ・カルガリー大学の研究チームは、妊娠時の葉酸欠乏が、胎児のみならず、その子や孫・ひ孫の代まで数世代にわたって悪影響を及ぼすようだと、科学誌『細胞』に報告した。

1381815247 「私たちの研究は、葉酸の代謝に関与する遺伝子の変異についてのものですが、通常の食事から摂る葉酸の不足によっても、遺伝子変異の場合と同様に後の世代まで悪影響を及ぼす可能性があります」と主任研究者のジェイ・クロス博士は語っている。

妊娠時に充分な葉酸が体内にないと神経管閉鎖障害という先天性異常のリスクが高まることは良く知られており、欧米では、小麦粉やシリアルに葉酸を添加するなどして葉酸不足を防いでいる国もある。わが国でも、妊娠予定のある女性には葉酸サプリメントの摂取が推奨されている。なぜかというと、神経管閉鎖障害は、妊娠の極めて初期の葉酸欠乏が原因となるので、妊娠に気付いてからあわてて葉酸サプリメントを摂っても手遅れの可能性が高いからだ。

しかし、葉酸不足が後の世代に及ぼす影響の大きさは実はほとんどわかっていなかった。葉酸強化政策には一定の効果が見られたものの完全でないのは、葉酸欠乏の影響が完全に取り除かれるまでに数世代を要することもその理由のひとつだろうと、クロス博士は、今回の結果から推測している。

クロス博士らの研究チームは、マウス(二十日鼠)を用いた動物実験によって、葉酸欠乏がどのようなメカニズムで先天異常をおこすのかを検討した。「研究は、Mtrrと呼ばれるマウスの遺伝子から始まりました」と共同研究者のグラベル博士は語っている。「研究目的はMtrrの遺伝子変異がどのように葉酸代謝に影響するかでした。結果として、まったく予期しなかったような複数世代にまたがる影響がみられたのです。」

Mtrr遺伝子は葉酸代謝の鍵となる酵素を作り出す遺伝子であり、その遺伝子の突然変異は、葉酸欠乏症と似たような効果を持つ。研究チームは、母方の祖母か祖父にこのMtrrの突然変異があったとき、遺伝的には全く正常な子ども(祖父母からみた孫)に広い範囲の発達障害が観察されることに気が付いたという。それは子どもがMtrrの変異遺伝子を持っていなくてもおこった。しかも、その影響はその子孫(ひ孫や玄孫)にまで及んだ。

この何世代にもわたって受け継がれていく発達障害は、遺伝子の変異によるものではなく、エピジェネティックな変化であることを研究チームは発見した。エピジェネティックな変化というのは、遺伝子の発現を調節するスイッチをオンオフするような変化のことであり、具体的にはDNAが化学的に修飾される現象をさす。これによって遺伝暗号自体は変わらなくても「変化」が子孫に伝わる。

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従来、このエピジェネティックな変化は世代ごとに洗い落とされてなくなると思われていた。しかし、今回の結果から、Mtrr遺伝子の突然変異によってできた痕跡は、何らかの理由によって消えることなく次の世代へと継承されていくのではないかと研究チームでは推測している。生物の発生にとって重要な遺伝子の、間違った痕跡が継承されてしまった結果、遺伝子は本来の機能を果たすことができないために、発達異常をもたらし、それがさらに間違った遺伝子のオンオフを結果としてもたらすのではないか、ということである。

「最近の葉酸研究によって、葉酸は発達障害だけでなくいろいろな人間の疾患に関与していることがわかっています。わたしたちの研究は、これらの背後に横たわる生化学的なメカニズムの解明と世代を超えた影響の複雑さに新たな洞察を与えるものです。」とクロス博士は語っている。

出典は『細胞』

監修・執筆 和気奈津彦(わけ なつひこ、薬学博士)
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